血液疾患 Blood disease
免疫介在性溶血性貧血(IMHA)
なんらかの原因により自己の赤血球に対する抗体が産生され、血管内や脾臓、肝臓、骨髄内で免疫学的機序により赤血球が破壊される疾患です。猫より犬で多くみられ、雌犬の発生率は雄犬の2〜4倍といわれています。この病気とよく似た病気に非再生性免疫介在性貧血(NRIMA)というのがあります。この病気では破壊される細胞が赤血球ではなく、赤血球の元になる骨髄中の赤芽球が破壊される病気です。
症状
臨床徴候としては、貧血の一般的な症状に加えて、発熱、血尿(血色素尿)や黄疸、脾腫、肝腫が見られる場合があります。
診断
赤血球に自己凝集(赤血球同士が結合する反応)が認められることや赤血球表面に抗体が付着していることを証明する検査(直接クームス試験)、赤血球の特徴的な形態(球状赤血球)などから確定診断が行われます。

治療
免疫抑制療法を行います。通常副腎皮質ホルモン剤を初めに用いますが反応が悪い場合その他の免疫抑制剤が併用されます。治療は数カ月間続ける必要があります。再発性や難治性の場合に脾臓の摘出が適応されることもあります。多くの症例は回復しますが重度の血色素血症や自己凝集がみられるもの、血小板の減少を伴ったものは予後が悪い傾向があります。
免疫介在性血小板減少症(IMTP)
IMHAと同様、自分の免疫により血小板が破壊され、重度の血小板減少症を起こす疾患です。
症状
一般的には皮膚、歯肉、強膜、膣粘膜、包皮粘膜などのに出血斑が見られたり、血尿、血便、鼻出血、喀血、吐血、前眼房出血などがみられます。

診断
血液検査では、著明な血小板減少が認められます。貧血は通常認められませんが時に失血性の貧血がみられます。診断は血小板減少を呈する他の疾患を除外することにより行われる。特に血栓症やDICとの鑑別は重要です。白血球減少症が同時に見られる場合は、骨髄の疾患が疑われます。
治療
IMHAと同様に免疫抑制療法を行います。
ハインツ小体性貧血(玉ねぎ中毒)
ヘモグロビンが酸化されハインツ小体という物質が赤血球内に形成されることにより起こる貧血です。ハインツ小体は赤血球表面から飛び出した状態にあるため脾臓などの狭い血管内でつまみとられてしまい、その結果赤血球が破壊されます。原因物質としては、玉ねぎ、ニンニク、ねぎ、アセトアミノフェン、メチレンブルー、DLメチオニン、プロピレングリコールなどがあります。通常玉ねぎによって起こることが最も多いため、玉ねぎ中毒とも言われます。
症状
突然発症し、血色素尿、発熱、時に黄疸がみられます。
診断
血液塗抹標本の観察によって赤血球表面に突き出したハインツ小体を確認する。

治療
原因物質が明らかな場合は、 その投与を中止します。 薬物療法としては今のところ有効なものは見つかっていません。 副腎皮質ホルモンは、 脾臓を抑制し、また免疫学的な赤血球の破壊も抑制しうるので対症療法として有効な場合があります。
ヘモプラズマ症
ヘモプラズマ症は、グラム陰性菌であるマイコプラズマの赤血球感染により引き起こされる溶血性貧血を特徴とする疾患です。感染経路は、ダニノミなど吸血昆虫による媒介、猫同士の喧嘩による咬傷、および母子感染が考えられています。かつてはヘモバルトネラ症と呼ばれ、猫では猫伝染性貧血とも呼ばれていました。猫のヘモプラズマ症は若齢の雄に多発し、ネコ白血病ウイルス(FeLV)およびネコ免疫不全ウイルス(FIV)に感染している猫において感染率が高いことが知られています。
症状
猫において急性感染は溶血性貧血を主徴とし、貧血の程度により異なるが、発熱、食欲不振、沈うつ、無気力、衰弱、体重減少、脱水症状などがみられます。身体検査では、可視粘膜蒼白または黄疸がみられ、呼吸促迫、頻脈、心雑音が認められることもあります。
診断
診断は基本的に血液塗抹標本を観察し、赤血球に寄生した病原体を確認することによって行われます。感染率の高い場合には、猫赤血球の膜表面上に単一または連銭した形態の青または赤紫色の好塩基性に染色される小さい球菌様(0.3~0.μm)の寄生体を確認することができます。現在はRealPCR法により遺伝子学的に猫のヘモプラズマの感染を調べることができます。

治療
猫のヘモプラズマの治療は、テトラサイクリン系抗生物質が有効であり、ドキシサイクリン、テトラサイクリンなどが用いられます。最近、ニューキノロン系抗生物質のエンロフロキサシンも有効とされています。