消化器疾患 Gastroenterological disease
炎症性腸疾患(IBD)
症状
2-3週間以上続く慢性の嘔吐、下痢が特徴です。食欲不振、体重減少、重度な例では腹水が溜まってお腹が腫れてきます。
診断
まず問診にて慢性腸炎を起こす他の疾患(食物アレルギー、寄生虫・細菌・ウイルスの感染、腫瘍)の除外をします。血液検査では低アルブミン血症、低コレステロール血症、貧血が認められます。エコー検査では腸管粘膜の肥厚がみられ、低タンパク血症が重度であれば腹水貯留がみられます。
内視鏡検査では、消化管粘膜の観察、組織生検(切除)を行います。
顕微鏡で腸粘膜への炎症細胞の浸潤などから診断をします。追加でリンパ球クローナリティ検査という遺伝子検査を行い、腫瘍性疾患であるリンパ腫との鑑別をします。
治療
食事療法として低脂肪、低アレルギーで消化性のよい療法食のみを与え、それ以外のおやつなどを与えないことを徹底します。ステロイドやシクロスポリンなどの免疫抑制薬による抗炎症療法に加え、抗生剤、整腸剤を用います。
消化器型リンパ腫
症状
IBDと同様に2-3週間以上続く慢性の嘔吐、下痢や食欲不振、体重減少などがみられることが多いです。穿孔(腸に穴が開くこと)した場合は、食べ物が腸の外に漏れ出て腹膜炎を起こすため、急激に状態が悪化し、そのまま亡くなってしまうこともあります。
診断
IBDと同様に他の疾患を除外します。身体検査では触診で腹部腫瘤を認めることがあります。血液検査では低アルブミン血症、低コレステロール血症、貧血などが認められます。エコー検査にて、消化管粘膜の肥厚、層構造の消失、腸間膜リンパ節の腫大や腫瘤形成がみられます。
腫瘤やリンパ節の針生検にて、腫瘍細胞が観察されます。また、内視鏡検査では消化管粘膜の観察、生検(わずかな組織を切除すること)を行い、院内での細胞検査または検査センターでの病理検査によりリンパ腫か否かの判断を行います。
リンパ球クローン性検査にてモノクローナルな増殖(腫瘍性増殖)やTリンパ球かBリンパ球かの判別をします。
治療
化学療法
抗がん剤を使って腫瘍細胞を殺滅します。抗がん剤の選択はリンパ球の分類(Tリンパ球かBリンパ球か)や悪性度(高悪性度か低悪性度か)により決定します。
外科療法
リンパ腫が腸の一部に限局している場合は手術で摘出します。腫瘍細胞を一度に減らすことができ、抗がん剤使用後に穿孔のリスクを減らすことを目的にしています。
急性膵炎
症状
激しい腹痛、食欲廃絶、嘔吐が特徴です。下痢、発熱がみられることもあり、重篤な例では腹膜炎や多臓器不全を起こして死亡することもあります。肥満や高脂肪食がリスク因子と言われています。
診断
血液検査では炎症があると増加するタンパク質(CRP)や、膵臓に特異的な酵素(リパーゼ)の上昇が認められます。エコー検査では膵臓の腫大、周囲脂肪の炎症像がみられます。続発性に胆管閉塞や十二指腸の炎症波及もよくみられます。
治療
輸液(点滴)、制吐剤、鎮痛薬、抗菌薬の投与、抗炎症など対症的治療を数日間、必要に応じて入院管理下で行います。栄養管理として1-2日の絶食後に食欲の回復をみつつ低脂肪療法食を給与します。
胆嚢粘液嚢腫
症状
食欲不振、嘔吐、元気消失、腹部痛、黄疸などさまざまです。胆嚢壁の破裂、穿孔を伴う場合は症状がより重篤になり死亡することもあります。
診断
血液検査では肝酵素(ALT、ALP、GGT)やビリルビンの上昇、白血球数、急性相蛋白(CRP)の上昇がみられますが、エコー検査での胆嚢の評価が最も有用で、胆嚢内容がキウイフルーツ様にみられます。これは胆汁が液体状からゼリー状に固まってしまい、胆嚢から排出されない状態を示しています。
治療
明らかな臨床徴候がみられる場合は外科療法として胆嚢摘出を行います。内科療法としては胆道閉塞がなければウルソデオキシコール酸、抗菌薬の投与、低脂肪食、さらに本疾患と併発することの多い内分泌疾患の治療を行います。
異物誤食(腸閉塞)
症状
突然の嘔吐、元気食欲喪失が特徴です。異物を食べた数時間後に詰まってしまうこともあれば、数日〜数週間経ってから詰まることもあります。閉塞が軽度な場合は食欲不振と嘔吐が時々みられる程度ですが、完全に閉塞すると内容物やガス産生によって腸管が引き伸ばされ、強い痛みと嘔吐が起きます。長時間放置すると腸が壊死して穴が開き、そのまま亡くなってしまうこともあります。
診断
触診にて腹部痛がみられ、大きな異物であれば触ることができます。エコー検査では異物自体の確認は難しいものの、異物が腸を内側から広げる様子や、閉塞した位置より口側の腸内には先に進むことができずに溜まった大量の液体がみられます。
バリウムなどの造影剤を飲ませて消化管に残存するか排泄されるかをみるレントゲン検査(消化管造影検査)では、造影剤が異物より先に進まず閉塞している所見が見られます。
治療
早急な外科手術による異物の摘出(腸切開)を行います。異物が胃内に残っている場合は開腹をせずに内視鏡で摘出できる場合もあります。
エキゾチックアニマルの疾患
胃腸うっ滞(毛球症)
消化管のうっ滞はウサギでよく見られる消化器疾患です。消化管の運動が悪くなることで、食欲不振や元気消失など様々な症状が現れます。
糞の性状や大きさ、数を日常的に観察しておくことが非常に大切です。
治療としては点滴や投薬、強制給餌が必要になることもあります。