腎泌尿器疾患 Renal urinary disease
急性腎不全
症状
数時間から数日という短期間で腎臓の働きが低下し、無尿、尿量が著しく減少する乏尿、食欲不振、下痢、嘔吐、脱水などの症状がみられ、重症になると、痙攣や体温低下、電解質異常などを起こし、死に至る場合もあります。
診断
血液検査で腎臓の値が高くなっていることや電解質のバランスが崩れていたりしていることで診断します。さらに尿検査や腹部超音波検査、レントゲン検査などを組み合わせて病態の把握や基礎疾患について検査を行います。
治療
集中的な管理が必要となるため、入院下で治療を行います。基本的に脱水を起こしているため、まずは静脈内点滴治療で脱水の補正を行います。点滴治療をしても乏尿や無尿の改善が見られない場合は、利尿剤を投与します。利尿剤を投与しても改善がない場合や内科的に腎不全のコントロールができない場合は腹膜透析や血液透析を行うこともあります。
慢性腎臓病(CKD)
慢性腎臓病は何らかの原因疾患が進行して機能的な腎臓の組織が喪失していき、不可逆性の機能不全に陥る状態です。慢性腎臓病は中年齢〜高齢の犬・猫において一般的な疾患であり、その罹患率は5〜6歳以上で増加すると言われています。慢性腎臓病の症例では左右いずれかの腎臓に軽度の損傷が生じている場合から両側の腎臓で大部分のネフロンが失われている場合まで、腎障害の程度が多岐にわたるため、症例ごとに臨床所見や経過が多種多様です。大部分の慢性腎臓病は不可逆的で一度罹患すると治癒することはないため、早期に診断し、早期に治療介入することが予後の改善に重要となります。
症状
初期は無症状な期間がありますが、その後、尿を濃縮する能力が低下するため多尿となり、その分、水をたくさん飲むようになるため多飲多尿の症状が現れてきます。腎不全が進むにつれて元気や食欲の低下や体重減少、嘔吐、脱水、下痢、口臭、口内炎など様々な症状が認められます。また貧血、電解質の異常、高血圧の症状も認められることがあります。末期になり、尿毒症まで発展すると痙攣や昏睡が見られることがあります。
診断
診断は、血液検査や尿検査、超音波検査、レントゲン検査などを組み合わせて行います。腫瘍や結石などが原因で慢性腎臓病に陥っていることもありますので、超音波検査やレントゲン検査などを行って診断します。また場合によっては血圧測定や眼底の検査も行います。
治療
慢性腎臓病の治療の目的としては大きく2つに分けられます。1つ目は進行を遅らせるための治療、2つ目は症状を取り除く治療(対症療法)になります。腎臓の進行を遅らせる治療としては 食事療法、血管拡張薬、吸着剤、血圧降下剤、造血剤といった様々な治療を組み合わせて行います。その病期ステージ・症状に合わせてケースバイケースで使用していきます。
対症療法は実際に症状が出てしまっている場合に行う治療です。点滴治療を主体に嘔吐などの症状の緩和し、快適な生活を送ってもらうために行います。特に脱水は急激に腎臓病を悪化させるため定期的な点滴が必要となります。
尿石症
尿石症とは尿に含まれるリン、カルシウム、マグネシウムなどのミネラル成分が結晶化し、尿の通り道である腎臓、尿管、膀胱、尿道に結石が形成される疾患です。結石が存在する場所によって腎結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石と呼ばれ分類されています。
症状
無症状のこともありますが、血尿や頻尿、痛みを生じるなどの膀胱炎の症状や発熱、食欲不振など様々な症状を呈します。尿石の種類にかかわらず、飲水量の不足は尿石形成と強く関連しています。特に冬場は活動性が低下し、飲水量が減ることが原因と考えられています。
診断
尿検査、レントゲン検査、超音波検査などによって結石の存在、種類を確認します。
治療
基本的には結石の溶解や再発防止のための食事療法を中心とした内科的治療を行います。
尿石が食事療法で溶けない場合や大きな結石が存在している、尿石が尿路につまって排尿できない状態のように緊急性の高い状態である時は外科手術により尿石を摘出します。
ストラバイト結石を溶解させるためには、尿中のリンやマグネシウム濃度を低下させ、体内での蓄積を制限し尿のpHを正常に戻す処方食を利用していきます。同時に尿路感染が深く関与している場合は抗菌薬の投与を行います。シュウ酸カルシウム結石は食事療法では溶解することができないため、過剰のカルシウムとビタミンD、ビタミンCを多く含む食べ物を控えるようにしていきます。
また、水分の摂取を増やすために、ドライフードへ水を添加することやウエットフードなどの併用を行います。尿路結石は再発しやすいため、食事での管理やこまめな水の摂取などに気をつけながら定期的に健康チェックすることが大切となってきます。
療法食は様々な種類がありますが、尿結石の種類、年齢、基礎疾患の有無で適切な療法食を選択する必要があります。お悩みの際は気軽にスタッフにお声掛けください。
結石の成分は様々ですが、犬猫で多いのはストラバイト(リン酸アンモニウム・マグネシウム)結石とシュウ酸カルシウム結石です。
尿道閉塞(尿閉)
尿は腎臓で産生され、尿管を介して膀胱に貯留されています。膀胱に貯留した尿が体外に排出されるときの通り道となる尿道が何らかの原因によって閉塞してしまい、尿が排出できない状態のことをいいます。
原因としては腎臓や膀胱内で形成された結石や重度の膀胱炎や腫瘍などが主因となり閉塞を生じます。尿道は動物や性別により構造や走行が大きく異なります。特に猫ではメスの尿道が比較的太く直線的であるのに対し、オスの尿道は細く会陰部でS字状に湾曲しているために構造的に閉塞を起こしやすいとされています。
症状
血尿、頻尿、尿が出ない、尿がぽたぽた滴る、不適切な場所での排泄、トイレで苦しそうにしているなどといった排尿に関連する症状に加え、落ち着かない、歩き回る、隠れる、元気や食欲の低下、嘔吐や軟便などの症状を示すこともあります。
これらの症状のいくつかが同時にみられる場合は注意が必要です。完全に尿道が閉塞してしまうと尿が全く排出されないため、膀胱が硬くパンパンに張れ痛みを伴ってきます。その頃になると腎機能が急速に傷害され、急性の腎不全を合併し意識が朦朧となり、痙攣発作や致死性の不整脈などを引き起こす尿毒症の症状を呈し、非常に重篤な症状を示します。
診断
完全に閉塞している場合は問診、触診などで尿道閉塞を疑います。腎臓や全身への影響を調べるために血液検査、場合によっては心電図検査を行います。また閉塞解除後に尿を採取して尿検査を行い、結石・結晶の種類や細菌感染の有無を判断します。
治療
ほとんどの場合は急性腎不全を伴っているため緊急処置が必要となります。
尿道にカテーテルを挿入して生理食塩水などを用いて塞栓子を膀胱内に押し戻して閉塞を解除し、尿路を確保します。併せて腎機能が回復するまで集中的な点滴治療を行います。膀胱の機能が回復するまではカテーテルを入れたまま治療を行っていきます。
これらの治療により改善が認められた場合は内科的に抗生剤や食事療法で再発防止に取り組みます。閉塞の解除ができない、再発を繰り返しており再閉塞のリスクが高い場合などは外科手術の適応となります。
猫では尿道を広げ、尿をよく出るようにする会陰尿道瘻設置術が再発防止に効果的だといわれています。
SUBシステム
当院では尿管結石や膀胱腫瘍などによる水腎症を呈した症例に対し、水腎症による腎障害の回避や排尿状態の改善を目的とし、そのような症例に対してSUBシステムを用いた手術を実施しております。
SUB(Subcutaneous Ureteral Bypass)システムとは、腎臓と膀胱にカテーテルを挿入しそれをつなぐことで尿管を迂回するというバイパス手術になります。
尿管ステントより径の太い2本のカテーテルのうち、ループカテーテルの先を腎盂に、ストレートカテーテルの先を膀胱に設置し、尿管を通さずに2本のカテーテルを一旦皮下に出して、皮下に設置したポートでつなぎます。
腎臓から出た尿はポートを通り、尿管を迂回して膀胱に流れ込みます。
尿管とは別のルートを確保するので、尿管断裂や術部からの尿の漏れのリスクを回避出来ます。
また、ポート部から砂状の結石などの洗浄を行う事が可能なため、再閉塞のリスクを軽減する利点があります。
精巣腫瘍
犬の精巣に発生する腫瘍には3種類がよく知られており、間質細胞腫、精上皮腫(セミノーマ)、セルトリ細胞腫があります。
腫瘍の発生年齢は陰嚢内の精巣に比べて潜在精巣の方が早く腫瘍化する傾向にあり、また潜在精巣の方が腫瘍化の危険性が10倍以上高くなるとも言われています。
診断
問診、視診、触診で精巣が正常な位置で正常な大きさであるかを判断します。一番重要なのは、精巣が下降している(潜在精巣ではない)かどうかという点です。腹腔内にある場合はエコー検査、レントゲン検査をすることもあります。
治療
治療法はいずれの腫瘍に対しても精巣摘出術(去勢手術)です。精巣の腫瘍は去勢手術によって予防することができますので、若齢期に去勢手術をすることをお勧めします。
前立腺肥大
前立腺は雄犬の尿道周囲にあり、精液の成分を産生する組織です。前立腺肥大は、この組織が男性ホルモンの影響で過形成を起こして肥大するためにさまざまな症状を引き起こす病気です。そのため、去勢をしていない中高齢以上の雄犬での発症が多いとされています。
症状
症状は肥大の程度によって異なります。軽度では無症状の場合が多く、肥大が進むにつれて排便回数の増加、便秘、しぶりなどの排便困難、血尿や尿が出にくいなどの症状がみられます。また前立腺の肥大が周りの腸などを圧迫し、まれに会陰ヘルニアなどの原因となることもあります。
治療
外科的に去勢手術をすることで肥大した前立腺は縮小します。中高齢になる前に早期に去勢手術をすることによって発症の頻度が低下します。そのため早めの去勢手術をお勧めします。
子宮蓄膿症
子宮内部の子宮粘膜に細菌感染が起こることが原因となります。通常は子宮内へ細菌が侵入しても、正常な粘膜の免疫により感染は簡単には起こりません。しかし、発情後期などでエストラジオールやプロゲステロンなど女性ホルモンの影響を受けて子宮粘膜が増殖して厚くなると感染が起こりやすくなります。このため、避妊手術を受けていない中高齢以上の犬に多く認められます。
この疾患は外陰部から排膿がみられる開放性と排膿がみられない閉鎖性があります。一般に外部からの異常に気付きにくい閉鎖性は発見が遅れ、中毒症状が重い傾向にあります。症状として発熱、腹部膨満、食欲不振、元気消失、多飲多尿、嘔吐、外陰部の腫大、開放性であれば外陰部からの排膿などが挙げられます。
診断
血液検査で一般状態、炎症の有無などを検査し、超音波検査、レントゲン検査で子宮の拡張を確認します。進行した状態では敗血症に陥り、腎不全、DICなど重篤な合併症を起こしているケースもあるため全身状態を把握できるような検査を行います。
治療
治療は根本的には早期に外科的に卵巣と子宮を摘出することです。避妊手術と同様の手術ですが、全身の状態や子宮の破裂などの可能性から通常の避妊手術よりリスクが高くなります。同時に抗生物質の全身投与も行っていきますが、治療が遅れると子宮の膿が全身に回り、敗血症となり、腎機能の低下やショック状態に陥り、死亡する場合もあります。この病気は不妊手術を早期に実施しておくことで予防することができます。そのため手術リスクが高くない時期に不妊手術を行うことをお勧めします。