皮膚・耳の疾患 Skin diseases / Ear diseases
犬のアレルギー性皮膚炎
犬のアレルギー性皮膚炎にはアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、ノミアレルギー性皮膚炎などがあります。なかでもアトピー性皮膚炎と食物アレルギーの症状が類似しており、併発しているケースも多くみられるため診断が困難です。
症状
アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの好発部位は眼や口の周り、肢端、指の間、脇の下、鼠径部、肛門周囲で、これらの部位に痒みや発赤を生じます。患部を舐める搔くなどの行動を繰り返し行うため、脱毛、掻把痕、びらん、潰瘍などが生じます。慢性化した症例では黒い色素沈着や苔癬化(皮膚が厚くなる)がみられます。また、二次的に感染を起こす場合があり痒みの悪化要因となります。ノミアレルギー性皮膚炎でも同様の症状がみられますが、腰部や尾部に好発します。
①アトピー性皮膚炎
遺伝的素因を背景とする皮膚バリア機能の低下や免疫の異常(IgEを産生しやすくなる)により慢性的な痒みを生じる疾患です。一般的に6か月齢~3歳ごろで発症することが多く、生涯にわたる管理が必要です。
診断
似たような症状を示す疾患を除外することにより診断されます。ノミアレルギー性皮膚炎、疥癬やニキビダニなどの外部寄生虫症、膿皮症とマラセチア皮膚症、食物アレルギーの除外診断を行ってもまだ痒みが残っている場合、犬アトピー性皮膚炎と診断されます。
治療
痒みを止めるために免疫抑制薬を用いた全身療法や外用療法を行います。炎症の重症度や病期に合わせた薬を選択します。また、シャンブー療法は皮膚に付着した環境抗原やブドウ球菌などの感染因子を除去や皮膚コンディションを整えるために有効です。
②食物アレルギー性皮膚炎
食物アレルゲンに対して異常な免疫反応が起こることにより皮膚症状や消化器症状を呈する疾患です。犬では1歳齢未満で認められることが多く、どの年齢でも発症することがあります。消化器症状を伴う場合は、嘔吐、下痢、軟便、排便回数の増加、腹鳴、放屁などさまざまな症状を呈します。原因となる食物成分を含まない食事によって症状の改善がみられます。
診断
痒みを伴う他の皮膚疾患と症状が似ているため、症状から食物アレルギーを診断することはできません。まず症状と食事歴などから疑い、他の掻痒性皮膚疾患を除外し、除外診断後に除去食試験(皮膚症状の原因でないと予想される食材のフードを一定期間与え、症状が改善するかどうかを確認する検査)と食物負荷試験(除去食試験で改善がみられた場合、以前給餌していたフードを再度与え症状が再燃すれば食物アレルギーと診断する検査)を実施して確定します。
治療
新奇蛋白食や加水分解食を用いた食事療法を行います。アトピー性皮膚炎を併発している場合は免疫抑制薬を用いた治療も必要です。
疥癬
疥癬は犬ではイヌセンコウヒゼンダニ、猫ではネコショウセンコウヒゼンダニの感染によって起きる寄生虫性皮膚疾患です。これらのヒゼンダニは人の皮膚では増殖できませんが、一過性の寄生によるかゆみや皮疹が認められることがあるため注意が必要です。
症状
耳介、肘などに激しい痒みを伴う皮膚炎が認められ、全身に広がっている場合もあります。重度の症例では病変部の皮膚は肥厚し細菌の二次感染がしばしば認められます。
診断
皮膚掻把検査によりヒゼンダニの虫体または糞を検出します。ただし、掻把検査で検出されない場合も多いため、診断的治療を行うこともあります。
治療
駆虫薬を用います。犬の疥癬では同居の犬に、猫の疥癬では同居の猫に感染している可能性があるため同時に駆虫を実施します。
慢性外耳炎
様々な原因が複雑に絡み合い、外耳に多彩な皮疹、構造、分泌物がみられます。若齢ではアトピー性皮膚炎、食物有害反応、老齢では内分泌疾患、腫瘍、ポリープなどの基礎疾患と関連していることがあります。
症状
赤く腫れ耳垢の蓄積を伴うもの(紅斑耳垢性)と細菌感染を伴うもの(化膿性)が多くみられ、重度の場合は激しい痒みと疼痛を伴います。耳道が重度に狭窄した過形成性や閉塞性の症例もみられます。
診断
外耳道の発赤、壁の肥厚、黒い色素沈着、耳垢の蓄積などが認められます。耳鏡やビデオオトスコープで耳道の深部や鼓膜の様子を評価します。また、X線検査やCT検査により耳道狭窄、石灰化や中耳の評価を行う場合もあります。
ビデオオトスコープ画像
治療
耳道の環境をできる限り元の状態に戻すことを目的とし、原因にあわせた治療を行います。マッサージによる耳洗浄だけでは残存した汚れを十分に取り除けない場合は、全身麻酔下でビデオオトスコープを用いて耳道にこびりついた汚れを除去しながら洗浄します。細菌感染が疑われる場合は細菌培養検査と薬剤感受性検査を実施し、適切な抗菌薬を選択します。過形成性や閉塞性の場合は外科的治療が適応になる場合もあります。